『 日米の雇用意識 』

アメリカで働きはじめて、日本との大きな違いを感じる部分の一つに雇用意識がある。 
シリコンバレーで日常茶飯に行われている転職は能力のある人材が、勢いのある会社
に短期間に集まり急成長する理由のひとつだが、その裏ではレイオフも行われている。  
社内での昇進や評価といったものも日本とは大きく異なる。 

シリコンバレーで初めて職を得たスタートアップが順調に立ち上がっていた頃の出来事だ。 
入社して1年の間にエンジニアの数が倍になり、売り上げも順調に伸びていた。  
自分が所属していたグループの組織は最初はフラットで6人のエンジニアが
VP of Engineeringに直接レポートしていたものの、組織が大きくなるにつれ、
ファンクションごとにグループを再編する時期に来ていた。 そして、それらのグループを
まとめるManagerの必要性をだれもが感じていたときだった。 
グループ内では年齢も上で、社内でも古株の1人のエンジニアが自然にグループを
まとめる存在となっていた矢先に会社は新しいManagerを外部から採用した。   
そのエンジニア以上に自分は大きなショックを受けていた。 誰よりもグループのメンバー
のことを知り、メンバーのために努力してきたエンジニアがManagerになれなかったのだ。
会社はManagement経験がない社内のエンジニアを昇進させることよりも、
外部でたくさんのManagement経験を積んだ社外の人を新しいManagerに選んだのだ。 
『一緒に頑張っている人がManagerになれるチャンスなのに』 と考えた自分に対して
会社は『成長している大事な時期にMangement経験がないEngineerに任せることは
できない』 と判断したのだった。
日本の企業文化では大切な入社年数や社内での経験が、ここでは通用しないと思い
しらされた出来事だった。 

同じ頃に、入社直後から自分のスーパーパイザーだったEngineerが来月には退職する
ことを告げてきた。 一緒に一年苦労してきたスタートアップがようやく軌道に乗り出した
ところなのに、何故?  大きな疑問を彼に問いかけた。 
彼からは答えの代わりに質問が返ってきた。
『会社の成功は、自分自身の成功と同じなのか?』 終身雇用意識がいまでも強い
日本人ならば、この質問の答えはほとんどが Yesかも知れない。  
『自分自身のエンジニアとしてのゴールはこの会社が成功することではない。  
自分のゴールに近づくために働いていたのが、たまたまこの会社だっただけで、ゴールに
近づく新しいポジションがあるのでそこにチャレンジする。』 彼からの明快な回答だった。 
シリコンバレーでは、自分自身のゴールをもったエンジニア達が同じベクトルを向いて
強力な力を発揮するが、自身のベクトルの方向が変われば、各々は躊躇なく違うところに
移っていくのだ。 

シリコンバレーで働く人の一社での平均勤続年数が2年足らずの中、設立20数年の
会社に16年働いた知人がいる。 タイトルがない時代からスタートし、社内社外でも
あらゆる人から信頼を集め、顧客を開拓し、会社の記録となる注文を受注して社員を驚か
せた。優秀な社員として何度も表彰され、そして社内での地位も順調にあがり、
エグゼクティブの仲間入りをしたのは何年も前。 
最近は直接CEOにもレポートする立場にまでなった。  
そんな彼が会社を去るという。 日本では青天の霹靂以外の何者でもない出来事だろう。
何故?  何かあったのか? そう考えることが愚問なのかも知れない。
Steve Jobsも自分が創立したAppleを追い出された経験がある、シリコンバレーでは
タイトルによらず、誰でも、自身がどんなに大きな成功をしていたとしても、こういうことが
起こりうるのだ。 そして、誰しも履歴書を常に見直し、アンテナを張り、いつでも行動
できるように備えているのだ。  

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