『IoTの波』

2014年1月、Googleはネスト(Nest Lab) を32億ドルで買収した。
日本ではあまり馴染みがない、家庭用のサーモスタットや火災報知機のインテリジェント
タイプを作っている会社だ。

そもそもアメリカでは必ずといってよいほど、家庭にあるサーモスタットだが、日本では
ほとんど見かけることはない。 
これは家庭内での冷暖房家電の環境が大きく違うことに起因する。  
日本の家庭では、リビングルームやベッドルーム、各部屋ごとに冷暖房器具があり、
それぞれはリモコンでコントロールされている。 ユーザーが直接触れることはないが
サーモスタットはこういった冷暖房家電製品に内蔵されており、それを個別のリモコンで
コントロールして室内の温度を調整している。  
セントラルA/Cコントロールが一般的なアメリカの家庭では、冷暖房器具はガレージなどに
設置され、各部屋にはセントラルA/Cから排出されるエアダクトがでている仕組みだ。 
それぞれの部屋やフロアの温度調整には、壁にサーモスタットのみが設置されていて、
希望の温度を設定すると、エアダクトから温風(冷風)が吹き出して、サーモスタットの
温度計が指定された温度に達すると、エアダクトからの温風(冷風)を止めるという単純な
仕組みとなっている。 

このシステムが一般化したアメリカでは、サーモスタットは汎用部品の一つで、
セントラルA/Cなどの冷暖房器具によらず、いろいろなサーモスタットが手頃な値段
($50〜)からネストのようなインテリジェント機能を含んだ高機能な高価なもの(~ $250)
までがHome Depot, Wall Mart のようなDIY, 大型スーパーなどで手軽に購入する
ことができる。
ユーザーは調子が悪くなったサーモスタットなどを購入して自身で簡単なDIYとして、
数年おきなどに交換しているのが普通だろう。 

Nestが発売しているサーモスタットはスマートサーモスタットと呼ばれるもので、数十年来
アメリカではほとんど変わっていなかったサーモスタットの標準機能に加えて
インテリジェンスなセンサーを取り付けて、室内にいる人の動きや、ユーザーが設定する
温度の志向や行動パターン(たとえば平日は朝8時すぎから夜7時までは温度調整が
必要ない、週末には温度を調整する必要があるなど)を解析して、室温コントロールを
自動で行うことにより、効率よく電気代を節約したり、また各サーモスタットにWifiをI/F
する機能を付加することによって、ユーザーは自宅にいなくとも室内の温度を調べたり、
温度調整をスマートフォンのアプリから行うことができるようにしたもの。
  
Internet of Things、いわゆるIoTが今後は市場に急速な速度で増え、あらゆるデバイス
がインターネットに繋がる世界になるだろうと言われているが、ほとんどのThings、
いわゆるデバイスはこれからマーケットに出て行くだろうと考えられているものばかり。
 HealthマーケットのいわゆるWearable sensorにしてもスマートフォンに変わる、
ウエアラブルコンピューターにしても、これから先に開発されて市場にでていく商品。 

ところが、アメリカ市場のThermostatはNestなどのWifiが機能として組み込まれたものが
既に市場に出回っており、ほとんどの家庭で簡単に導入される大きな可能性を秘めている。 
Googleはその部分に大きな魅力を感じて買収という結論を選んだのであろう。 
スマートサーモスタットがついている家庭には人がいるのか、いないのか、どんな生活
パターンの家庭なのかをサーモスタットの温度変化を通じてネット上に吸い上げてしまう
ことも可能だ。 

Nestのアナウンスによれば、Googleは各ユーザーの許可なしには、それらの情報を
吸い上げたり利用したりはしないと言っているが、原理的には既に可能ということは
世間では周知のこと。 
今後もIoTのポテンシャルマーケットの種をもっている企業、アイデアには高値がついた
買収劇が起るだろう。 

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