データは何も語らない


ダッシュボードのデザインで大切なストーリーテリング

 「数字は語る」、あるいは「データは語る」という表現がありますが、正確ではありません。言わんとしていることは、「データを見れば、おのずといろいろなことがわかってくる」という意味で、たしかにそのとおりなのですが、実際には、データがおのずと語りかけてくることはありません。データはただの値の集合体です。データを見た人間が、それを人間の言葉に置き換え、データの代わりに語らなければなりません。そう、データには、代弁者が必要なのです。当然ながら、代弁者は、よき理解者でもなければなりません。

ダッシュボードを作成して、データを提示するとき、わかりやすくデータを提示することが何よりも重要ですが、それだけではデータの価値が伝わらない可能性があります。データの持つ意味は、すべての人にとって同じではないからです。データの重要性に気づかない人が多いからこそ、ダッシュボードでデータを提示するわけで、そのデータがなぜ重要なのかを伝えなければ、提示しても意味がありません。

ダッシュボードは、データの重要性を効果的に伝えるためのツールです。その効果を高めるためのダッシュボードのデザイン方法は、これまでいろいろと検証されてきました。たとえば、文字や色を使い過ぎず、よりシンプルに、適切なグラフや表のタイプを選択してデータを提示する、などです。そのような視覚効果はダッシュボードの醍醐味でもありますが、それと同じくらいダッシュボードのデザインに重要なのは、データの「ストーリー」です。ダッシュボードには、見る者に語りかける「ストーリー」が必要です

良いストーリー構成の基本は、言わずと知れた「起承転結」です。ダッシュボードの場合、「転」は必ずしも重要ではありませんが、「起承結」は、読者(視聴者)をストーリーに引き込むためには欠かせません。

ダッシュボードにおける「起承転結」

— ダッシュボードの最初の段階で、問題を提議したり、仮説を提示したりして、ダッシュボードの目標を示すことでオーディエンスをストーリーに引き込みます。これから語るストーリーの背景や、何が重要なのかを最初に提示しないと、オーディエンスが話に着いて来れません。

これを行うには、大前提として、オーディエンスが誰なのかをしっかり定義できていなければなりません。提示するテーマに対するオーディエンスの知識レベルや、オーディエンスが何を求めているのかを把握したうえで、はじめてオーディエンスの心をつかむストーリーを展開することができます。

— 次に、データの分析結果を提示します。ダッシュボードならではの視覚効果と適切な提示方法(表やグラフ)を用いてデータをわかりやすく表示することはもちろんですが、なぜ、このデータが重要なのか、データの裏に何が隠されているのかを解説し、ストーリーの核心へとオーディエンスを導きます。これを行うには、ダッシュボードを作成する前に、質の高い適切なデータを集め、その深層を分析できていなければなりません。データアナリティクスの真価が問われるのが、このステージです。

— 承から直接、結に進むこともできますが、データの視点を変えたり、新しいデータで主題に別の角度から光を当てるのも、ストーリーに説得力を持たせるうえで効果的です。ただし、データ過多にならないように気をつける必要があります。多種多様なデータが氾濫している中、的を絞ったデータをきちんと整理して提供するのがダッシュボードの役割であることを忘れないでください。オーディエンスのニーズとプレゼンテーションの目的に沿った形で、あくまで主題をサポートできるデータを提供することが大事です。

— データから引き出したインサイトを提示します。データから導き出した提案や問題の解決策を提示して、オーディエンスからのフィードバックを引き出したり、アクションを促したりできる結論でストーリーを締めくくります。ダッシュボードのストーリーテリングは紙芝居ではないので、一方的なナラティブの押し付けにならず、オーディエンスとのコミュニケーションを促進するのが理想的です。最初に定義した目標にも拠りますが、ビジネスの意思決定を支援する場合や新しいアイデアを提案をする場合など、ほどんどのユースケースでは、いかに次のアクションにつなげるかが鍵になります。

以上が、ダッシュボードのデザインで考慮すべきストーリーテリングの基本です。データを巧みに視覚効果を駆使してシンプルにわかりやすく提示しても、データの価値や重要性が正しく伝わらないことは珍しくありません。データがおのずと語りかけるストーリーは、わかる人にはわかるものですが、ダッシュボードはわかる人にだけわかればよいものではありません。ダッシュボードを作成する際は、データの代弁者となって、そのストーリーをダッシュボード上に表現しましょう。

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