データを制する企業がビジネスを制する — 企業のデータ戦略に変革をもたらす注目テクノロジー


近年のITイノベーションはすべて「データ」を中心に進行しています。いかにデータを集めるか、いかに良いデータを振り分けるか、どう保管するか、どう処理するか、どのように分析してビジネスに生かすのか、など。オンラインの普及でデータの量と種類が爆発的に急増し、それをどうするか⁉がITの最重要課題になって久しいですが、近年、それに対応する新しい技術が次々と生まれてきました。

2020年代は、企業がその新しい技術の実用化をいかに進め、より効果的に「データドリブン」となるかが試される10年間になるのではないでしょうか。2020年代が始まって一年半が経過した現在は、企業のデータ戦略が大きな変革を遂げる過渡期に差し掛かっていると言えます。ここでは、データドリブンを目指す企業の近年の取り組みや、データ戦略の変革に向けてゲームチェンジャーとなりうる注目テクノロジーをいくつか見ていきたいと思います。

デジタルスレッド(Digital Thread)

デジタルスレッドとは、製品やそれを取り巻くデータエンティティ(多種多様なデータの発生元となる主体、つまり開発者やユーザーなど)の、企画、設計から納品、サポート、廃版に至るまでのライフサイクル全体にわたるデータのつながりを指します。それをリアルタイムでトラッキングおよびモニタリングできるデータの統合リポジトリを、デジタルスレッドと呼ぶこともあります。

最先端技術を取り入れたプリンタの開発で知られるLexmark社では、「デジタルスレッドの統合的なデータ管理アプローチがIoTやクラウドベースのas-a-service戦略を補完し、バリューチェーン全体にわたってクローズド ループ アナリティクスを拡大する機会となる」と捉えています。具体的には、デジタルスレッドによって「リアルタイムのユーザー傾向にもとづき、何を、いつ、どこで開発すべきかが判断でき、サプライチェーンの強化につながる(製品技術責任者Andy Kopp氏)」ことが期待されています。

データカタログ(Data Catalog)

データカタログは、企業全体のデータ資産をメタデータとして中央管理するインベントリです。SASのデータ管理ソリューション責任者Kim Kaluba氏はデータカタログの役割をこう説明しています。

「複雑なデータエコシステムから正しいデータを簡単に見つけ出し、ビジネスの課題に迅速かつ正確に答えられるようにします。今後、データカタログはさらに成熟し、企業はデジタル資産をすべて一か所でカタログ化し、識別できるようになるでしょう」

データカタログの強化が、企業のデジタル資産のガバナンスを徹底させ、ビジネスの成否を視覚化するのに役立つ、と同氏は強調しています。データカタログのコンセプトは新しいものではありませんが、あらゆる企業に共通する課題であり、その強化があらゆるデータ戦略の基本になることは十分に期待できます。

データ インテリジェンス ソフトウェア(Data Intelligence Software)

データカタログをさらに進化させたのがデータ インテリジェンス ソフトウェアで、企業の戦略的意思決定やプランニングに重要なデータインサイトをもたらす一連の技術を指します。つまり、データ インテリジェンス ソフトウェアは、企業のデータ資産からビジネス価値を見い出すための統合プラットフォームとなります。AIや機械学習は、すでに大小さまざまな企業がビジネスに積極的に取り入れていますが、それらを一括管理する統合プラットフォームの重要性は今後ますます高まっていくに違いありません。

スケールアウト データベース(Scale-Out Databases)

データベースを実装する環境は、これまでになく多様で変化の激しいものとなっています。今日のデータベースは、継続的な容量の拡大や、内外のさまざまなソースから取り込まれるデータの種類の多様化に対応できなくてはなりません。そのため、スケールアウト データベースを採用する企業が増えています。

同時に、データベースは用途の専門化(ニーズの特化)が進んでいます。「どのようなデータを扱うのかを見極め、正しいデータベースを選択するのが重要だ」と、Splice Machine社CEOのMonte Zweben氏は指摘しています。「データベースの要件は、リアルタイムではないアナリティクスから、機械学習やリアルタイムのトランザクション クエリをともなうアナリティクスなど、多岐にわたり、スケーリング方法、レイテンシ、スループット、可用性、一貫性など、さまざまな基準を考慮する必要がある」と、Zweben氏は強調しています。

インサイト エンジン(Insight Engine)

企業内の検索システムをAIや機械学習と組み合わせ、インサイト エンジンを導入する企業が増えています。今日の検索エンジンは、キーワードを調べるだけでなく、文脈や背景を理解し、先を見越した全方位的な知見を提供してくれ、社員の生産性を向上させるツールとして期待されています。あらゆる企業にとって、DXのゲームチェンジャーとなりうる技術です。

ローコード、自動データ ディスカバリー(Low-Code and Automated Data Discovery)

データ ディスカバリーの自動化とローコード テクノロジーが、企業のデータ競争力を高める技術として注目されています。「企業が短時間でより多くのことをデータから引き出すための技術」と、Dell傘下のデータ管理ソフトウェア会社Boomiの副社長Ayush Parashar氏が評価しています。同氏によれば、企業には平均850のアプリケーションがあり、そのうち連携されているのは30%程度だそうです。コロナ禍では、各社員が使用するアプリケーション数がさらに増えており、それらを統合してデータを見つけやすくすることが企業の競争力を高めます。統合的なデータ管理でビジネスのインサイトを引き出し、プロセスの合理化を進めるのは、IT部門に限らず、企業全体のあらゆる部門に求められる課題です。だからこそ、開発者ではなくビジネスユーザーが直接管理できるローコードでインテリジェントなデータ ディスカバリーの重要性が、今後ますます高まると予想されます。

DataOps

DataOpsとは、簡単に言えば、データアナリティクスのアジャイル アプローチです。企業内のデータ プロセスを統合・自動化してデータアナリティクスの質を高め、プロセスの効率化を図ります。DataOpsは、「リーン生産方式のデータアナリティクス版であり、無駄を省いてエラーをなくすためのリーン データアナリティクス」だと称するのは、DataOpsソフトウェア会社DataKitchenのCEO、Chris Bergh氏です。程度の差こそあれ、ほとんどの企業がデータアナリティクスをビジネスに活用している今日、他社に先んずることができるのは「DataOpsドリブンのワークフローを自動化」する企業だと、Bergh氏は説いています。「アナリティクスのアジリティは、ビジネスのアジリティに通ずる」のだそうです。

グラフデータベース(Graph Databases

グラフデータベースは、データを取り巻く関係を瞬時に把握するためのデータベースで、リレーショナル データベースと違い、表ではなくグラフ構造でデータを管理します。見た目はグラフというより、ネットワーク構造に近く、データがネットワークのように構成する相互関係をたどるのが、表を結合させるのに比べて格段に効率的なのが特長です。グラフデータベース自体は新しいものではありませんが、近年、リアルタイム環境における検索スピードの重要性が増したのと、データの多様化が進んだのとで、改めて注目され出しています。特に、コロナ禍の停滞を機にサプライチェーンの管理システムにグラフデータベースを導入する企業が増えつつあるようです。

もちろん、従来型のリレーショナル データベースが現在も主流であることに変わりはありませんが、単一ソリューションですべてに対応する時代はとうに終わり、新しいデータ システムやテクノロジーが次々に生まれています。「データを制する企業がビジネスを制する時代」に入り、2020年代が進むにつれてビジネスの勢力図を塗り替えるようなゲームチェンジャーとなるデータ テクノロジーのさらなる躍進が見られるはずです。ポスト コロナのビジネス変革は要注目です。

 

 

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