『2011年二つのIPO』シリコンバレーIT現地情報 2012.1号


2011年度はアメリカ全体では景気後退と言われることが多い年であったが、シリコンバレーでは新しいビジネスモデルをもとに、起業、躍進する会社があった。その中でも2社のIPOのその後が年末年始の噂に度々あがった。

一つ目の会社はソーシャルゲームの会社Zyngaだ。
少し前までは日本ではあまり馴染みがない会社であったが、2010年8月にSNSのMixi内でヒットしたゲームを扱っているウノウ株式会社の買収で名前を聞いた方も多いのではないだろうか。
USではFacebookのランキングでは常に上位にあがるソーシャルゲームを提供し続けていることで有名だ。2011年度は他ゲーム会社の買収(ポーカーゲームのMarketZero)やLady Gagaをゲームで起用するなど話題も多かったが、2011年後半には、9月の四半期発表で前年同期比で利益の大きな減少やユーザー数の減少というネガティブな報道もあった。そんな中で12月15日に新規株式公開(IPO)の公募価格を決定した。
公募価格が$10で設定されたが、この公募価格がどれくらいまであがるのかでニュースを賑わした公開であった。 ITネット関連の企業としては、2004年のGoogle以降に最大規模で、公募価格に基づく時価総額は$70億となる。

ところが、公開してみると最初は$11で取引開始したもののじりじりと価格が下がり、初日のクロージングでは公開価格割れの$9.5で取引終了となった。
その後もじわじわ下がって、現在の株価(2012年度初め)でも、$8程度で推移している。
2011年の後半に発表された、前年同期比の売り上げ減少やSocial Gameというカテゴリーで安定して売り上げを伸ばすことがいかに難しいか、またそれを市場に納得させることが
困難かを反映した株価推移になっていると言わざるを得ない。

そして二つ目の企業はGrouponだ。
設立からわずか3年目の企業にも関らず、昨年の派手な宣伝などもあり、こちらは日本でも有名な企業のひとつであろう。
広告モデル以外になかなか安定した収益を稼ぎだすビジネスモデルが見つからないネット業界において、ディスカウントクーポンの販売で急激に売り上げを伸ばし続けているGroupon。昨年から消費者がPCからモバイルへと大きく移行しているなかで、消費者の位置情報をもとに、特化したサービスが提供できるGroupon Nowというサービスも市場では多いに期待されていた。 そんな背景もあり、昨年の10月にIPOの公開規模を縮小するニュースには、がっかりした投資家もいただろう。 結局、株式発行総数の5%程度の3500万株を11月4日に公開した。取引価格は$20と公開予想価格の$16-$18を上回って取引開始。 その後$27の最高値を記録したものの、現在の株価は$18とIPO価格を下回ってしまった。 株価低迷の理由の一つに、Grouponに出店した企業側のリピート率の調査結果も反映してしまったのかも知れない。Grouponを利用した顧客は非常に大きなディスカウントで商品が買える反面、商品を購入する必要性が低かった顧客も多いことが判明している。
その結果、Grouponのサービスからは固定客を作ることが難しく、出店した企業側のメリットが低いというのである。

ともに、株式市場全体が低迷している中をネット企業、SNSゲーム企業として短期間で売り上げを伸ばしていた企業のIPOにより、米国景気回復の起爆剤的な期待を背負っての上場だっただけに、現在の株価水準からみると、少し残念な結果となっている。
もう一つの見方として、ネット系ビジネスは短期に爆発的に成長する可能性があるものの、そのビジネスモデルを長期的に維持することの難しさを露呈してしまったと言えるかも知れない。急激に変化する消費者思考、ビジネスモデルの波に乗れば、一気に大きな潮流を作ることができるが、消費者が離れていく、引き潮も早いのかもしれない。

結論を出す前に、2012年度にはGoogleの最大のライバルFacebookのIPOが控えている。
どういう結果になるのか、今から楽しみだ。

by HiroM

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