米ITスタートアップを取り巻くM&Aについて


このブログ欄でもたびたび紹介してきたKubernetes環境のデータ保護ツールKasten K10の開発会社Kastenが、Veeam傘下に入りました。このニュースの詳細はこちらのLinkedInフィードを参照してください。

ここでは、このような米企業のM&AとIT市場の動向について少し述べてみたいと思います。

まず、米企業のM&Aは日常茶飯事なので、大手IT企業がベンチャー(スタートアップ)企業を買収するのは珍しいことではありません。そのスタートアップの技術が大手IT企業が目指す市場に有意義で、なおかつ、その大手IT企業に足りないものであれば、なおさらです。

Kubernetesによるコンテナの管理がデファクトスタンダード化する中、VM(仮想マシン)のサポートを中心に行ってきた大手IT企業が、Kubernetes環境のサポートにも力を入れるのは当然の流れで、そのような軌道修正はIT企業がこれまで何度も経験してきたことです。ただし、Kubernetesに関する限り、今までにないような技術のギャップが生じていました。バックアップとリカバリによってインフラストラクチャのセキュリティを確立するのは、本来お手の物だったはずですが、Kubernetes環境は少し勝手が違ったのです。ざっくりした言い方をすれば、システムの構成要素がバラバラに再起動を繰り返すため、インフラ単位のセキュリティ管理が合理的でなくなった、と表現すればわかりやすいかと思います。これに、マルチクラウドやオンプレミスとの併用(ハイブリッド環境)が加わり、さらに、複数データベースの活用(Polyglot Persistence)が進むと、技術のギャップはさらに広がります。

この流れは、今までにもまして、有望なスタートアップが目を付けられやすい状況を生みました。技術のギャップを自社で縮めるよりも、そのノウハウを構築したスタートアップをまるごと取り込んだほうが有益と判断される状況が、Kubernetes環境に関しては、これまで以上に顕著でした。

Kastenは、インフラストラクチャの視点からではなく、アプリケーションの視点からエコシステム全般を網羅し、散在するシステム要素を見つけ出して合理的に保護する技術を開発し、それが高く評価されました。その技術の市場価値が認められわけで、Veeam傘下に入るのは決して悪い話ではありません。これ以外にも、このところM&Aの事例がいくつか連続していますが、その中でもKastenとVeeamの組み合わせは特に理に適っていると思われます。

しかし、このようなM&Aはひとえにスタートアップの技術を取り込むためのものなので、取り込み終わったらどうなるのか、という疑問もつきまといます。Kastenに関しては、Veeamが以下のようなコメントを残しています。これによれば、当分Kastenの存在感が薄れるようなことはないはずです。

Veeam “intend(s) to retain, grow and invest in the fantastic team and technology which Kasten has started and will continue to invest in contributions to the open source Kubernetes community as well.”(Veeamは、Kastenが立ち上げた素晴らしいチームと技術を維持、拡大し、投資していくつもりで、オープンソースのKubernetesコミュニティへの貢献にも投資を続ける予定です)

このような米企業のM&Aは、個人的にも目の当たりにした経験があるので、参考までに少し体験談を添えたいと思います。

古い話で恐縮ですが、20年ほど前にカナダで就職したソフトウェアのスタートアップ企業は、当時、米国で2番目の規模を誇る大手IT企業に買収されました。会社の形態は、Veeam傘下のKastenのように、完全独立が保たれ、業務には何も変わりがありませんでした。5年ほどして業績が低迷したときに初めて親会社が経営に参画し始めたので、業績が伸び続けていれば、ずっと独立状態だったのかもしれません。経営が親会社に変わってからは、仕事内容は変わらずとも、会社のしくみが親会社に合わせて変更されました。その後さらに5年ぐらいにして、今度は親会社が他の大企業に吸収合併されました。そのぐらいになると、M&Aが激し過ぎて、あまり参考にはなりません。会社のしくみはもちろん、場所も肩書も全部変わりましたが、仕事内容は変わりませんでした。それから、さらに10年近く後に開発拠点のインド移転で本社開発部が解散するまで、同じチームが同じ関連ソフトウェアをずっと作り続けていたので、外身は激しく変遷したけど、中身はずっと同じだったことになります。

要するに、開発チームがどのように存在し続けるかは、すべて技術力次第なのではないでしょうか。その点、Kasten K10の技術は今後も大いに期待が持てます。

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