Entrust CSP (Cryptographic Security Platform)の Vault for Cloud Keys は、マルチクラウド環境におけるデータ主権の確保、暗号鍵の完全なコントロール、クラウド事業者によるデータ復号の防止(ゼロトラスト暗号化)を実現するためのモジュールです。
ここでは、HYOK(Hold Your Own Key / 外部鍵管理) および DKE(Double Key Encryption / 二重鍵暗号化) の連携アーキテクチャと動作メカニズムを解説。
1. 鍵管理方式の前提整理(BYOK vs HYOK vs DKE )
方式 鍵の生成場所 鍵の稼働・復号場所 クラウド事業者のアクセス可否 特徴・CSPでの位置づけ BYOK (Bring Your Own Key)オンプレミス (HSM/CSP) パブリッククラウド側 鍵・平文へのアクセス可能性あり(メモリ等) クラウドネイティブな暗号化。CSPからクラウドKMSへ鍵をエクスポートする。 HYOK / XKS (Hold Your Own Key / 外部鍵管理)オンプレミス (HSM/CSP) オンプレミス (CSP Vault) 内 クラウド側は鍵を持たない クラウドKMSが暗号・復号リクエストをオンプレミスのCSPへリレーする。 DKE (Double Key Encryption / 二重鍵暗号化)クラウド & オンプレミス (CSP) クライアント端末 + 各鍵基盤 クラウド事業者は絶対に復号不可 2つの独立した鍵で二重に暗号化。Microsoft 365 / Purview等で活用。
2. HYOK(外部鍵管理 / XKS)の連携アーキテクチャ
HYOKは、クラウド事業者のKMS(AWS KMS XKS、Google Cloud EKM、Azure Key Vault MHSMなど)と連携し、暗号化・復号のマスター鍵をクラウド外(自社管理下のCSP Vault / nShield HSM)に保持し続ける 仕組みです。
[ クラウド側サービス (S3, EBS, GCS, etc.) ]
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▼ (データ暗号化リクエスト)
[ クラウド KMS ] (AWS KMS / Google Cloud EKM)
│
▼ (REST / TLS 相互認証)
[ CSP Vault for Cloud Keys ] ── (ハードウェア保護) ── [ nShield HSM ]
動作フロー(エンベロープ暗号化の例)
データ暗号化時 :
クラウドサービスがデータ暗号化鍵(DEK)を生成します。
クラウドKMSはDEKの保護(ラッピング)をオンプレミスの CSP Vault にリクエストします。
CSP Vaultは、バックエンドの nShield HSM 内で保護されたキールート(KEK)を用いてDEKを暗号化し、クラウドへ返却します。
データ復号時 :
クラウドサービスが暗号化されたDEKをクラウドKMSへ送信します。
クラウドKMSがCSP Vaultへアンラッピング(復号)要求を送信します。
CSP Vaultがアクセス制御ポリシー(ロール、送信元IP、承認フロー等)を検証し、許可された場合のみ復号したDEKをクラウドへ返却します。
HYOKのメリット
キルスイッチ機能 : 法的差押えやコンプライアンス上の緊急事態が発生した場合、CSP Vaultへのネットワーク経路遮断や鍵の無効化を行うだけで、クラウド上の全データへのアクセスを即座にブロック できます。
3. DKE(Double Key Encryption / 二重鍵暗号化)の仕組み
DKEは、主に Microsoft 365(Purview Information Protection) などの極めて機密性の高い文書やデータを保護するために設計されたアーキテクチャです。データを2つの鍵で二重に暗号化し、片方の鍵をクラウド(Microsoft Azure)、もう片方をオンプレミスの CSP Vault(DKEサービスエンドポイント) が保持します。
[ ユーザー端末 (Word, Excel, Outlook等) ]
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┌───────────────────────┴───────────────────────┐
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[ 鍵 1: Azure Rights Management ] [ 鍵 2: CSP Vault (DKE Endpoint) ]
(Microsoft クラウドが管理) (自社管理下の nShield HSM で保護)
暗号化とアクセスの流れ
文書の作成・暗号化 :
端末上のOfficeアプリが、MicrosoftのAzure RMS から公開鍵(Key 1)を、CSP Vault から公開鍵(Key 2)をそれぞれ取得します。
文書データはこれら2つの鍵で階層的に二重暗号化されます。
文書の閲覧・復号 :
閲覧者が文書を開く際、端末はまずAzure RMSへ認証してKey 1の復号要求を行います。
次に端末は、自社管理下の CSP Vault のDKEサービスへ直接TLS相互認証でアクセスし、Key 2の復号を要求します。
CSP Vault側でID検証(Microsoft Entra IDトークン等)とポリシーチェックを通過した場合にのみ、復号許可が下りて端末側で平文化されます。
DKEのメリット
完全なゼロトラスト暗号化 : クラウド事業者(Microsoft)は Key 2 を決して保持しないため、クラウド事業者自身であっても、政府機関からの召喚令状等があっても、データを復号することが技術的に不可能です。
物理的な鍵分離 : CSP VaultとnShield HSMによって、Key 2の生成・保管・使用がFIPS 140-3の改ざん耐性境界内で完結します。
4. CSP Vault が提供するエンタープライズ統合の強み
マルチクラウド横断のポリシー統合 : AWS XKS、GCP EKM、Azure/M365 DKEで異なるインターフェースやプロトコルを、CSP Vaultが一手に吸収し、単一のガバナンスポリシーで管理できます。
監査とアクセス証跡の自社保持 : クラウド側のログだけでなく、鍵への復号要求ログがすべてCSP Compliance Manager側に記録されるため、不正なクラウドアクセス試行の検知が容易になります。
クリプトアジリティ : 将来的な暗号アルゴリズム更新や耐量子暗号(PQC)への移行時にも、クラウド側の設定を大幅に変えることなく、オンプレミス側のCSP/HSMレベルで段階的に移行可能です。