自治体のDX推進や働き方改革に伴い、Microsoft 365(M365)を活用する自治体が増加しています。しかし、「クラウドだからデータは絶対に安全」というわけではなく、以下の理由からサードパーティ製ソリューション等による独立したバックアップが極めて重要になります。
導入にあたって押さえておくべき重要なポイントは以下の5つです。
1. Microsoftの「責任共有モデル」と標準機能の限界
クラウドサービスの基本として、Microsoftはインフラ(サーバーやネットワーク)の可用性は保証しますが、そこに保存されている「データ自体」の保護は利用者の責任となります。M365の標準機能(ゴミ箱など)でも一定のデータ復元は可能ですが、「データ削除から30日以内」といった保持期限の制限があり、長期間気づかなかった誤操作や削除によるデータは完全に失われてしまうリスクがあります。
2. ランサムウェア等のサイバー攻撃対策とBCP(事業継続計画)
近年、自治体はランサムウェアなどのサイバー攻撃の標的になりやすくなっています。攻撃者はデータを暗号化するだけでなく、復旧を妨害するためにバックアップデータ自体の削除・破壊を試みるケースも増えています。有事の際に身代金を支払わず迅速に行政業務を復旧させるためには、Microsoftのシステム基盤から完全に切り離された「独立した環境(エアギャップ)」でのデータ保管が不可欠です。
3. 公文書の保護と情報公開請求(コンプライアンス)への対応
M365(TeamsやSharePointなど)の利用が定着すると、システム上には公文書等の重要な行政データが大量に蓄積されていきます。情報公開請求(FOI)への対応や監査のためには、特定の期間におけるメール、添付ファイル、会話の記録を確実に保持し、必要に応じて迅速に検索・抽出(eDiscovery)できる体制を整えておく必要があります。
4. 人事異動・退職に伴うデータ保護とライセンス費用の最適化
自治体では毎年のように大規模な人事異動や退職が発生します。職員が退職した際、アカウントを削除してM365ライセンスを解約すると、そのアカウントに紐づく過去のメールやOneDriveのファイルなども失われてしまいます。専用のバックアップがあれば、退職者のデータを安全にアーカイブしつつ、高価なライセンスを新たな職員へ無駄なく再利用できます。
5. ヒューマンエラーからの迅速な復旧
日々の業務の中で、職員が誤って重要な計画ファイルやスプレッドシートを削除・上書きしてしまう「人的ミス」は避けられません。自動バックアップ(例:1日に複数回、あるいは数十分単位でのスナップショット)を取得していれば、事故が起きる直前の任意の時点にシステムを素早く復元でき、住民サービスの停滞を防ぐことができます。
まとめ:自治体がバックアップ・ソリューションを選定する際のポイント
M365の導入によって業務効率は飛躍的に向上しますが、同時にクラウド上にある住民の個人情報や行政データをいかに守るかが新たな課題となります。「万が一の保険」として公文書等の重要データを独立して保護することが、クラウド活用とセキュリティ強化を両立する大きなポイントです。導入を検討する際は、以下の点を確認することが重要です。
- データ保存先の国内要件(データ主権): 公文書や住民情報が含まれるため、バックアップデータが日本の国内データセンター(国内リージョン)に保存される仕組みになっているか。
- 退職者アカウントのライセンス費用: 退職者のデータを保持し続ける場合、無期限でバックアップ側に保持できるか、その際に追加のライセンス費用が発生するかどうか(退職者データを無期限・低コストで保持できる専用プランを提供するメーカーもあります)。
- 三層分離(β・β’モデル)への対応: 自治体のネットワーク環境(インターネット接続系での運用など)に合わせて安全に導入・運用できるか。
- ランサムウェア対策: バックアップデータ自体が攻撃者によって暗号化・削除されない「イミュータブル(不変)ストレージ」に対応しているか。
特定の製品を選ぶ際は、各庁の現在のM365ライセンス形態や、既存のネットワーク環境との親和性、予算などを踏まえて比較検討することをおすすめします。